柏水堂のプードル

higashinaoko2004-11-17



 岩波ホールに「父と暮らせば」を本下いづみさんと観に行く。先に着くと、ロビーに折り紙が置いてあり、これで作った折鶴が、広島の原爆忌に飾られるという。オレンジの一枚を折っているところで、本下さん到着。実は折り紙きちんと折れないんですよー、と言いながら折っていると、横で本下さんが折り方図を見ながら、苦戦されている……おや。


 映画の舞台は昭和23年の広島の夏。被爆しながら生き残った娘(宮沢りえ)の恋の応援をするために、幽霊となって父(原田芳雄)が現れる。娘が心を寄せる研究者の木下さん役は浅野忠信。たった3人しか出てこない映画。ほぼ同じ家の中で展開する物語は、舞台を見ているようだった。と思ったら井上ひさしの原作も、もともと舞台用に書かれたものでした。
 重いテーマだけど、広島弁の父の愛あるユーモアまじりのセリフがあたたかくて、ほのぼのと見ることができました。家族も友達もみんな死に、自分だけが生き延びたことを後ろめたく思っている娘を宮沢りえが可憐に演じていて、とてもいい映画でした。
登場人物の少ない映画もいいもんだなあ。その余白を生かした黒木和雄監督の演出もよかったです。戦争レクイエム3部作の完結版だそうです。
 広島には数年住んだことがあるので、方言がなつかしかったです。「のう」「じゃ」「しんさい」「しんちゃい」という語尾たち。やわらかくウェーブするアクセント。
 客層もきまじめな人々ばかりで好ましいのが、岩波ホールの特徴。座席のあちこちで静かに交わされるチラシや新聞の切り抜きを見ながらの会話。


 安部公房に、タイトルが「顔」だったかな、顔の半分に大やけどの跡があるけれど、片方の横顔は透明な美しさを保っている看護婦の話があった。たとえば、そんなものを背負った少女だったとしたら、又は、宮沢りえ程うつくしくなく、木下さんも熊みたいな人だったら、などと余計なキャラクター組み替えを考えたりなどしたのでした。


 
 「ろしあ亭」にてつぼ焼きのシチューランチを食べ、「東京堂」に寄り、「短歌があるじゃないか。」の三人のサイン本を発見。本下さんと一緒に検証する(笑)。
 金原瑞人さんが「愛を想う」の引用をしてくれている「流行通信」もやっと手に入れる。


 柏水堂でお茶。マロングラッセも。写真はお土産のプードル。大きな息子がこのかわいいケーキを食べるところを見たくて買ったのだが、電車にゆられて持ち帰ったそれは、無残に形がくずれ、ひとつは完全に、く、首が。。。わりと無事な方を、かぼが即食べする前に撮ってみましたが、お店にいたときは、もっとかわいかった気がします。今どきめずらしいバタークリーム。
 かぼの感想=「甘い」。2文字でした。
 リンの感想=「ん、なんだこれは。……なんか、なつかしい味」(くずれる前の姿を見せてやりかったね)



 映画は、それほど激しい場面は出なかったものの、なんとなく熱戦を浴びたような疲れが身体に残り、ソファーで横になってるうちにうっかり2時間も眠ってしまった。

 


・折鶴のかたちを残し火は消える たったひとりをたったひとりに   東 直子