名古屋日帰り

昨日は春畑茜さんの『きつね日和』批評会にパネリストとして参加してきました。
歌集の良さから熱気のある、充実した内容だったのではないかと思います。
当日私が用意したレジュメは、以下の通りです。

第一歌集『振り向かない』より
鶏卵をときほぐしつつこの吾に纏わり来たるさびしさのあり
映像の中のわが子は得意気にできそこないのチョキを出しいる
洗っても拭ってもまだありありと手にしみついている挫折感
何で何で何でなんだよ水道の蛇口を抜けてほとばしる水
振り向いておいでおいでと呼びいしを思い出したり路上 真昼間

第二歌集『きつね日和』より
【「本」の歌】
ごんぎつねけふを撃たるる身と知らず絵本の山に栗を拾へる
をさなごのひらく『日本の魚図鑑』何処にも行けぬ眼の数多見ゆ
いま出会ふ少年と犬そののちをともに非運に暮るるを知らず
綿を摘むトムをぢさんの背がさびし雨ふる午後の書の町も秋
子ぎつねが手ぶくろを買ふものがたりその夜の町は雪にあかるむ

【心情/情景】
雨の日の母子ははこの遊びさびしくてわが描かく花を子は塗りつぶす
とほき日の葛湯のやうなやさしさに和紙のひかりは机上にひらく
硝子戸をバスも車も過ぎゆけりわれひとりとりのこされしやう
西日さす畳はさびし見えぬ眼に薬さしゐし祖母思ほゆる
売られゐる風船はみな寡黙なりガスに膨らむ身をつながれて
焦げ目つくまでをぢりぢり待ちながらグリルの鯵は泪目を見す
自転車の銀のひかりはわれを越え橋のむかうに遠くかがやく
秋の雨ましてしづかに降るゆふべ柱時計はおのれを打てり
濁音を重ねをさなき口は食む袋のなかの薄きチップス
子のこぼす油脂の匂ひや塩の粒ゆふべさびしきものは散らばる
泣きわめく子供がひとりまたひとり玩具の森をあゆめば出会ふ
眼に揺らぐ水草のあを冬のあをめだかの銀の尾鰭が触るる
ひひらぎの花こぼれゐる日暮れみち青てぶくろに子の掌をつつむ

【抽象/情景】
なほ遠く秋のわが身をわれは曳く狐日和の雨のひかりに
未来とふ言葉のひかり朝の陽のやはらかに差す路上に思ふ
ひと重八重ほのか匂へる梅林にこころはあそぶわれを離かれつつ
何もかもみな煮崩れてゆきました。八月の夜を鍋が呟く
靴下を春のひかりに吊るしやるひやくねんせんねんゆめみるがよき
西瓜食み終へては西瓜欲るこころ生くるかぎりを渇くかわれは

歌集の詳細は↓
http://www.fubaisha.com/search.cgi?mode=close_up&isbn=2058-5