老いたる子供自転車

晴。


春の陽気の感じられる中、ひがな「ズッコケ大研究ファイナル」のための資料読み。


夕方、仕事場から自転車で帰ろうとすると、風で傾いたのか、隣の子供用自転車のハンドルがひっかかる。傾けてどけようとすると、今度は、ペダルが車輪の針金にひっかかっかって、なかなかとれない。
この子供用自転車、サドルは破れているし、泥はねはぐにゃりとゆがんでいるし、ペダルのゴムも切れていて、全面ほこりまみれ。相当使われていないらしい。たぶんもうこの自転車を使っていた子供は、大きくなってしまったか、どこかへ越したかで、ぼろぼろの彼、青い子供自転車くんは、二度と使われることはないのだろう。
でも、使われなくてもゴムは硬くなり、破れ、金属は錆び、立ったまま、どこにもいけないまま、老いていくばかりなのである。
複雑にからんでしまったペダルを車輪からはずしながら、ママ、おいてかないで、という、遠い昔の子供のたましいの声を聞いた気がして、苦しくなった。


・遠くから来る自転車をさがしてた 春の陽、瞳、まぶしい、どなた   東 直子